~当事者の代弁者となる対応を~
重度の知的・精神障害者、痴呆のお年寄り、子供など判断能力にハンディのある人の場合、本人にとって不本意な生活を強いられていてもそれをアピールすることが難しく、権利侵害なども潜在化しているケースは多いものです。
中核地域生活支援センターは既存の福祉関係機関・権利擁護機関をはじめ、市町村、NPO、地域の当事者や当事者を支援するグループとも連携して、迅速な問題解決を目指します。潜在的なニードの掘り起こし、当事者のエンパワメント、既存機関の活性化、新たな地域生活の資源の開発などを通して、相談や権利擁護を行います。
帰結点としては、相談者に必要なサービスが受けられる体制ができたり、被害救済のレールが敷かれたと判断した時点を帰結点の目安とします。
ただし、相談者の意見と中核地域生活支援センターの意見、あるいは世間の見方が一致しない場合も考えられるので、相談者を継続してサポートしていきます。相談者が自ら声を上げて訴えられるようになったり、成年後見人を付けたり、責務を負った既存機関に安心してケースを委ねられる状況になったりして、「問題解決のための機能」が働き出したのを見極めながら、少しずつ手を引いていくようにします。
1 性格
中核地域生活支援センターは、民間ベースの地域生活支援の拠点であり、当事者の視点に立った活動に徹します。既存の公的機関が要請されるような中立性や公平性よりも、むしろ当事者のアドボカシー(代弁)に重心を置いた活動を心がけます、
潜在化しているニードや権利侵害の掘り起こし、当事者のエンパワメントをしながら必要な福祉サービスに結びつけたり、権利の回復を援助します、その際、既存の専門機関に相談を”丸投げ”するのではなく、専門機関が十分に役割を果たし、本質的な問題解決が実現できるように支援します。それによって専門機関の活性化も図ります。一方、緊急時の介入(対応)は既存機関との役割の垣根を乗り越えてでも乗り出します。それをきっかけに専門機関との連携や協力を強める体制を作ります。
2 評価基準
相談件数・処置件数だけでなく、以下のような項目を評価基準にします。
- 潜在化したニーズや被害をどれだけたくさん掘り起こせているか
- どれだけ深く掘り起こせているか
- 迅速で適切な相談対応ができているか
- 難易度の高い相談や権利擁護活動がどのくらいできているか(意欲と結果)
- 他の専門機関と連携し、それらをどのくらい有効に機能させているか(補完的な活動や棲み分けに陥っていないか)
- 新たな「資源」の開発がどのくらいできているか
- 24時間365日の相談体制ができているか
- 緊急性、必要性の高い事案を優先して取り組む体制やマインドがあるか
- 公平性・透明性に配慮し、世間の信頼を勝ち得る活動ができているか
- 相談内容の守秘が担保されているか
- フォローがどのくらいできているか
3 実務ガイドライン
(1)地域総合コーディネーターと掘り起こし
中核地域生活支援センターの特徴のひとつに地域総合コーディネーターがあります。その中心となる地域総合コーディネーターは、支援を必要とする方が住み慣れた地域や希望する地域で生活をおくるために、福祉をはじめとした様々なサービスを総合的にコーディネートする役割を担う人材です。そして、どこに、どの分野の得意な施設や人材がいるのか把握することが求められます。また、地域での信頼を得られることが非常に重要です。
さらに、各中核地域生活支援センターの看板を掲げて相談を待っているだけでは意味がありません。
知的障害者や痴呆のお年寄りなど判断能力にハンディのある人たちの権利侵害などが、なぜ、潜在化しているのかを分析したうえで、各地域の実情に応じた掘り起こしを行う必要があります。知的障害者の権利侵害に取り組んでいる弁護士や福祉関係者の間では、被害を受けている障害者の特性として以下のようなことが指摘されています。痴呆の高齢者や子ども、そのほか一般の人にも共通する点が多くあります。
- 被害や自らのニーズを言葉にしにくい
- 無力感を身につけ、あきらめている、家族もあきらめている
- 家族や福祉従事者が被害に気づかなかったり、加害者の立場になっている
- 既存の相談機関や権利擁護機関が訴えをすくい取れていない
それではどうすれば、掘り起こしができるのでしょうか。当事者本人や当事者のニードを掘り起こせる立場の関係者に直接情報が届くように工夫します。
- 中核地域生活支援センターのことを当事者や家族に知らせる
- 地域の当事者団体、家族会などと連携する
- 当事者のニーズを知る機械が多い福祉職員と連携する
- あきらめている当事者(家族)をエンパワメントする
- 当事者に寄り添った活動をして中核地域生活支援センターを信頼してもらう
- 活動内容、特に権利侵害を解決に導いた事例は地域に広報し、中核地域生活支援センターの活動をアピールする
具体的には次のような取り組みが考えられます。
- 地域住民や福祉従事者向けの研修会
- 当事者(家族)向けの法律相談やワークショップ
- 当事者団体とのネットワークづくり
- 公的機関との連絡会議の開催
- 個別の生活支援、生活支援をしている人々との交流
- 広報誌の発行
(2)相談
相談業務は、障害者・高齢者・子どもの福祉の現場で十分なキャリアを積んだ職員が当たらなければなりません。カウンセリング、心理学、法律などについて必要な基礎知識を学び、地元にどのような専門機関があり、どのようなNPOや当事者グループが活動しているのか、といった福祉・社会資源と十分な連携を取っておく必要があります。
相談の携帯としては、電話、面談、訪問、手紙やファックスやメール・・・などが考えられますが、いずれの場合も、以下のような点に配慮するべきです。
- 訴えに耳を傾け、励まし、元気づける
- 正確な情報をわかる言葉で伝える
- 混乱した情報を適切に整理する
- 利用者の状況にあわせて情報を説明する
- 解決の道筋や方法を一緒に考える
- 福祉や医療、法律などの専門的な知識を直接・間接に提供する
- 身近な場所で一緒に動く
- 生活支援の機能やサービスに結びつける
- 煩雑な申請や契約の手続きを一緒に行う。または代行する
- 継続して関わる
相談があった場合は、すべてのケースについて決められた書式にしたがって記録を作成します。どのような対応をしたのかについても簡潔に正確に記録します。以下の活動の手順の一例です。
- 相談記録の作成
- 緊急性や必要に応じて、地域の関係機関に連絡・協力依頼
- 部会等を定期的に開催して、相談記録をもとにケース検討会を行う
- 事後検証についてもできるだけ行うように努める
(3)権利擁護
一般的にひどい権利侵害であるほど口に出しにくく、潜在化しやすいものです。一見して平易な相談の中に深刻な権利侵害が隠れているケースは少なくありません。公平性に気遣うあまり、相談者の不信や不安を掻き立てて、ケースを崩してしまうことも多いものです。まずは優しく相談者に寄り添う姿勢に徹して思いを引き出します。決して責めないことが重要です。
家族が被害を受けた本人と利害相反の心理状態になるケースは決して少なくありません。家族の思いに配慮しながらも、そうしたパラドクス(障害のある子を不憫に思うがゆえに、被害を隠したりあきらめてしまう)を家族にもわかってもらう努力をすべきです。被害者本人の「本意」がどこにあるのかを絶えず意識しながら、本人や家族の聞き取り、協力者の確保などを行います。 プライバシーには十分に配慮し相談者の了承を得ながら、ふれあいサポーターや地域の
当事者グループなどとともに活動します。問題意識を共有し一緒に活動することが、こうした関係者に対する最大のエンパワメントになり、平素の「掘り起こし」にも大きく寄与することになります。
被害実態と本人の現況や意思を分析し、どのような解決手段があるのかを検討します、法律家による相談で問題の整理に役立つ場合も多くあります。個別の解決だけでなく、問題の社会化に努めることが必要な場合も多くあります。個別の解決だけでなく、問題の社会化に努めることが必要な場合があることも勘案します。相手からの謝罪、被害弁済、示談、刑事訴追、名誉回復、問題の改善、制度改革など、事案に応じてさまざまな方法があることを相談者やスタッフに知らせて検討します、その際、相談者の本意とは関係のない「副反応」(世間からの誹謗、相手からの抗議)なども起き得ることは十分に検討し相談者にも理解も求めます。
警察、消費者生活センター、法務局などの被害救済に関与する公的機関と平素からネットワーク作りに努め、これらの機関の特性や置かれている現状について把握し、いざというときに有効な救済活動が実現するような関係を築いておくことも重要と思われます。
(4)県・市町村の役割
県の役割
県は、中核地域生活支援センター事業の総合調整を行います。
具体的には、本庁において、委託機関を決定するための選考委員会の開催や当該事業の管理、広報、中核地域生活支援センターへの調査・指導など中核地域生活支援センター事業の周知・推進のための事業と、コーディネーターの研修や評価委員会の開催など機能の充実のための事業を併せて行います。
また、各健康福祉センターにおいては、各圏域における調整を行います。
具体的には、管内の連絡調整会議を中核地域生活支援センターとともに開催することや、連絡調整会議の障害者、児童、高齢者の各部会の立ち上げを行います。実績報告等についても窓口となり、中核地域生活支援センターの活動に対して、行政の立場から積極的に助言を行うなどの支援を行います。
市町村の役割
各市町村は、健康福祉センターが開催する連絡調整会議への出席や、中核地域生活支援センターの運営委員会委員へ就任するなど当該事業に積極的に関わっていただく必要があります。そのほか、住民・事業者等とともに地域福祉を推進する行政機関として連絡調整会議に設置される各部会へ出席し、地域の課題や個別ケースへの対応を図ることが期待されます。