機能

1.「地域に必要な相談機能」について

 誰もが安心してその地域で生活するためには、どのような相談支援機能が必要なのでしょうか。

 この相談支援機能について、中核センターが立ち上がった際の議論や本研究会で行った市町村調査、意見交換、そして、本研究会での意見を踏まえて、「地域で生活する上で必要な相談支援機能」について以下に挙げてみました。

(1)”いつでも”対応する相談支援機能

 中核センターが相談支援をする住民は全て「生活者」です。生活は24時間の営みなので、中核センターの相談支援活動は24時間であり、365日受付となります。

 夜間働いている住民は生活サイクルが少々異なりますが、多くの住民は昼間働いて、夜は一家団欒の時であったり、くつろいで心も身体も休め翌日に備えています。多くの人々がそうである時に、そのように過ごすことが出来ずに不安にさいなまれたり、耐え難い状態で苦しんでいたりしてSOSを発している人たちがいます。そして夜間は深刻な相談である場合が多いです。

 夜寝ないで活動しており、外を徘徊していて家族が探し回っていて支援を求めているケース、夜間DVや虐待に遭っており救出が必要な場合、DVに遭って脱出してきたケース、家の中で暴力にあっている場合、夜間リアルタイムで子育てのアドバイスや支援を求めているケース、どこからか流れてきた人のケース、自傷をしてしまったケース等々。

 昼間働いている人が相談したい場合は夜の時間帯に相談することになります。夜間に相談支援に応じて活動する期間は地域では救急活動や犯罪防止活動を除いてはほとんどありません。そのような地域の空白状態に対応して相談を受けたり支援活動をする期間が必要です。

(2)”だれにでも”対応する相談支援活動

 福祉事業は量的にも質的にも多様化し拡大してきています。しかし、その福祉サービスを利用できない人たちが多くいます。制度を知らない人たち、制度を理解することが困難な人たち、サービスの利用を申請できない人たちあるいは申請に行く意欲を失っていたり、生活が困難な状況でどうしたらよいかのか混乱して前に進めない人たち等々、このような人たちには制度サービスや制度外サービスに繋いていく支援が必要です。

 支援を必要としていても制度の対象になっていない住民も支援を受けられることが必要です。要保護児童や障害児(者)や高齢者以外にも支援の手は必要です。

(3)”どんなこと”にも対応する相談支援機能

 福祉制度の対象となっていない生活問題は多々あります。制度化されていない人権侵害問題、多重債務問題、ホームレス問題、保証人の問題、ボーダー層の問題等々。そういった問題にも支援の手が必要です。

 様々な事情の中で福祉サービスの利用を拒否している人たちがいます。また、自分の生活の再建をあきらめている人たちがいます。このような人たちは福祉サービスの利用申請にはつながりません、このような状況には放置することなく、支援者が積極的に入っていって関わっていかねばなりません。

 相談支援事業では相談の入り口でその内容を縦割りで仕分けてしまうと、事業者中心の相談支援になり、”たらいまわし”になります。したがって、ワントップでどのような相談でも一旦受け止め、整理をし、その上で必要な支援が受けられるように繋いだり、自ら支援をしたりする必要があります。

 生活が困難である問題は多くの要因が重なって起きているし、家族全員で困っている場合がほとんどです。たとえ相談の主訴がひとつであっても実際は他問題であることがほとんどです。従って家族全員を支援していく活動が必要となります。また、その当事者の関わる地域そのものが支援活動の対象となることも多々あります。

(4)寄り添い型の相談支援機能

 福祉サービスや福祉機関を紹介すればそのサービスを利用できるという人は大体福祉機関の窓口でことは足りますが、相談にくる多くの人たちはそれでは繋がりません。生活の困難状況の中で疲れきっていて、生活を立て直す意欲を失っているか、混乱してしまってどうしたらよいのか分からない状況にあるからです。そのような場合は一対一で時間を掛けて寄り添いながら信頼関係を築いていく必要がります。

 生活困難状況にある人は孤立していることが多く、人を信頼できなくなっているか、怖くなっている人もいます。従って支援者であっても、本当に頼ってよいのか不安だし、何でも話してよいのか疑心暗鬼になっていいます。そういう状況にはとりあえず役に立つ生活支援をすることは有益だし、その人に気持ちの動き特に苦しさや怒りや訴えを時間をかけて聞いていくこで信頼関係を築いていき、信頼関係の形成に応じて生活の問題を振り返ることも可能になっていくし、相談者が自分から発信して支援を依頼することが可能になります。寄り添うことで困難な生活状況下「生きる意欲」が引き出されるような支援が必要です。でもこのことが自己決定や自立につながっていきます。

 今日虐待やいじめや仕事における挫折などによって自立が出来ないで苦しんでいる人たちが増えています。このような人たちに様々な福祉施設(入所、通所)などを紹介しても利用は困難になっています。社会が怖くなって参加できない状態だからです。このような状況ではまず一対一で寄り添いながら心の傷を受け止め、回復を図りながら話し合ったり、活動をしたりといった時間が必要です。この支援は寄り添いながらでなくては出来ない支援です。

 相談者は施設に行って何かのサービスを受けることよりも、まず自分の日常生活の安定を望んでいます。そのためにはその人の日常生活の場と流れに沿って支援をしていくことが基本です。従って支援はアウトリーチが基本となります。日常生活をなるべく切り取らないことと相談者の気持ちや身体の状態に沿った、支援をやってあげるのではない相互関係的な支援活動が重要となります。

(5)問題解決型の相談支援機能

 従来の相談機関の機能は情報提供や、調査、評価、アドバイスを実施し、その後は自己努力を求めるというあり方が多かったのですが、それでは生活問題が解決し得ない困難なケースについては訪問などを重ねながら様々な支援を投入することによって、生活が安定し相談者が支援を受けながら自ら生活を運営していけるまで支援をしていく相談期間が登場してきています。この機能が定着することによってセーフティネットに貢献することになります。

(6)相談者の「生活支援」をする機能

 相談の中にはこのままでは命が危ないというケースや明日の食べ物がないとか病院に行けないとか支援サービスに繋ぐまでの時間、とりあえずどうするかという状況がよくあります。このような場合サービスにつなげるまでの生活支援が”とりあえず”必要です。

 サービス資源には地域格差も大きく必要な支援が受けられない場合もあります。そのような場合の穴をうめるための生活支援が必要です。

 また、相談者との信頼関係を築くためにも今役に立つ生活支援を入れることも有効です。

2、地域のコーディネート機能

(1)一人ひとりのためのネットワークの形成

 人の生活を成り立たせている要素や条件は多くのことが必要です。一人の人の生活の相談支援を行い、問題の解決を図るためには多くの専門の支援ワーカーの結果が必要となります。かつ、その専門家のネットをまとめ動かす総合的なコーディネーターが必要となります。ワントップ型の第一次機能としての相談支援事業は直接相談支援者を支援すると共に地域の必要な支援の力を集めて、その力がその相談者にとって有効に機能することができるための総合的な視点を持ってまとめ、ネットワークを形成していくことが求められます。この一人ひとりのためのネットワークが地域の第一次的なセーフティネットとなります。生活問題はひとりのワーカーや一つの事業所だけで解決できることはまず困難です。

(2)一人の人のための支援活動を通して、そこから見える福祉課題を地域に発信する機能

 一人の人の相談は同時に地域に対する訴えであり、問いでもあります。何故その人がそのような困難な状態になってしまったのか、あるいはそのような状態に放置されていたのか。虐待や犯罪の背後には常に支援の不在であったり、差別があったり、地域からの排除あったりということが見られます。相談支援者は最も生活困難な人たちの代弁者でありうる位置にいます。一人ひとりの問題を地域の課題として「自立支援協議会」や「要保護児童対策地域協議会」などの地域の協議機関に上げて、地域の取り組みを提案していく役割を担うことが求められます。そのことによって地域の力が成長し、そのことが一人ひとりに還元されていきます。

(3)現在ある地域の資源のネットワークの形成をコーディネートする機能

 現在ある資源をネットワーク化するメリットは、第一に協働で事業の質の向上を図れることです。住民のニーズに地域全体が質の高い偏りのない支援が出来るようにすることが可能になります。第二に事業者が共通の課題を情報交換したり意見交換を通して課題の解決を図っていくことに有効に働きます。第三に行政と事業者の協議の場となりえます。第四に地位行きのオンブズマン機能を前進させる条件となります。

(4)新たな資源を作るためのコーディネート機能

 相談支援ワーカーがいくら努力してもサービス資源がないことには問題の解決は困難です。この課題には地域全体が取り組むことが不可欠です。そのためには地域の関係者が地域の課題について気づいて、自らの課題として協議し、資源創設に取り組まねばなりません。相談支援ワーカーは生活困難な住民の実情について地域の関係者に発信し、その創設作業をコーディネートしていくことが役割です。個別支援と地域づくりのコーディネートは一体的な機能なのです。

(5)人づくりへのコーディネート機能

 地域の福祉力を向上していくためには様々な地域事業の展開が必要となりますが、その事業が支援を必要とする人たちのニーズに適切に対応して有効に機能するためには、質の高い人材が求められます。そのためには支援を必要とする当事者の実態とニーズを最も理解して代弁が出来る相談支援ワーカーが中心となって人材育成のプログラムを実施していくことが必要です。そのことによって新たな地域課題への対応が可能になります(例えば、「在宅ケアのスキルについて」、「精神障害者の生活支援について」、「虐待のない街づくりについて」等々)。

3、権利擁護機能について

(1)緊急に介入する機能

 福祉のニーズに対応する支援活動が一般に申請と契約に基づいて実施されるが、人権侵害ケースにおいてはその前提は成立しない。その事実または疑いを知りえた時点で緊急かつ介入的に対応することが必要とまります。被害者の安全確認を最優先とした実態の把握から、救済、調査、調整、通告、注意、解決等の活動を実施します。

(2)シェルター機能

 救済においては再び被害に遭うことのないように支援することが不可欠なので、シェルター機能を用意し、繋ぐことが必要です。児童相談所やDVセンターなどの公的なシェルターに繋ぐことや地域内の民間のシェルターが重要な役割を果たします。

(3)自立支援機能

 人権侵害の被害は被害者の人格の損傷のみならず、生活の破壊をもたらします。従って安全を図りながら、身体と心の損傷の回復を図ると共に生活的な自立が出来るように支援することが必要となります。

(4)生活支援機能

 人権侵害問題の解決を図るためには、加害者が抱えている生活的、人格的な困難性に対して支援をする必要があります。加害者の生活が安定することは何より問題の解決に必要です。例えば、高齢者虐待における介護者に介護支援が入って、介護の負担を軽減することで逆体制が解消していくことは多くの例で示されているところです。他の人権侵害事例においても同様です。

(5)司法機能との連携

 人権侵害事例においては何よりも被害を止めて被害者の安全を確保することが最優先のことなので、緊急性、介入性を含めて法的な権限を持って事態の解決に当たることも必要になります。相談支援事業者は司法権限を有した機関との連携が必要となります。権限を持たないワーカーはむしろ権限を持たないことを有効に使って加害者を支援したり、家族関係の修復を図ることが求められます。

(6)人権侵害のない地域作り機能

 一つひとつの人権侵害事例を通してそこにある問題性を地域に発信して地域全体がその問題に取り組んでいくことが重要です。また、地域の機関自体人権侵害の加害者である場合もあります。その場合はその機関の体質改善を図っていく必要があります。「そういう活動を通して地域全体の人権水準を高めていく具体性を持った啓発活動が求められます。

(7)三位一体となるべき機能の連動性

 すでに明らかになったように、個別の相談支援機能と権利擁護活動と地域コーディネート活動は一体的に機能することが必須です。権利擁護と相談活動は同時的に行うものであり、権利擁護と生活支援活動は機能上の役割は異なった側面を持ちながらも、使用していくことで問題の解決が図られます。また、地域の啓発活動抜きには住民の人権は守られません。人権水準の向上によって人権侵害の被害は減少していきます。また、個別の相談支援において当事者のニーズをサービスにつなげようとしても資源がなければ翼をもぎ取られて飛べない状態となります。地域づくりと一人ひとりのためのコーディネート活動は車の両輪のような機能です。

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